今年度の
活動
織部に「閑寂」を忍ばせる
2023/09/02
2020年11月1日、名古屋市「東山荘」にて催された倉澤行洋先生の講演を拝聴させて頂きました。その際のお呈茶の席に、私も自作の織部・黒織部等の器をいくつか使っていただいたのですが、水屋を訪れられた倉澤先生に茶碗の講評を頂く機会を得ました。
先生は静かにひとつひとつの茶碗を手に取られ、ゆっくりと見られた後、「もう少し高台を丁寧にされると良いですね。」と仰いました。高台づくりは、茶碗を作る工程の中で一番好きな部分で、私としては時間を掛けて丁寧に作り上げたつもりだったのですが、自分勝手な土いじりの楽しさに酔った作陶を見透かされ、一遍に恥ずかしくなってしまいました。口づくりについても同様の事を仰られました。造形の変化や面白みを追求するだけの、作り手の独りよがりを窘められたのだと感じました。
そして「織部焼きにはどこかに利休が隠れていなくてはいけません」という言葉を頂きました。器に「閑寂」を求めた千利休、弟子として「変化」の道筋に発展させた古田織部。それぞれの指導の下に生まれた作行きが現代まで受け継がれていますが、その様式の奥にある思想的な部分を汲み取らないといけませんよ、と。
一通り講評を頂いた後、先生は黒織部の一碗を手に取られ「このお茶碗で一服頂いてみたいですね」と言ってくださいました。「ものの良い悪いというような事とまた別として、『使ってみたい』と感じさせるというのは大変に大事な事です。そのまま励まれると良いでしょう。」
ホっとした様な、嬉しい気持ちで一杯となりました。
作り手としては、どうしても素材や装置、技術的な部分、そして自らの表現に気が行きがちとなってしまいますが、先生との対話の中で、心の在り様が大切であるという事を教えて頂きました。今はまだ足りませんが、より理解を深めて、利休の「閑寂」がチラリと垣間見えるような織部を焼きたいと思います。
倉澤行洋氏の著書である「桃山の美とこころ」にて倉澤先生と対談された陶芸家の寺田鉄平氏は9月24日に行われる「静かに傾く」において朗読をしていただきます。
寺田 鉄平(陶芸家)
愛知県瀬戸市の窯元5代目として 寺田康雄の長男に生まれる。1998年東京造形大学彫刻科卒業。
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